Other voices 9. 吉田 勝己

Other voices 9. 吉田 勝己

道は一つではない

 サラリーマン時代、5部門の統括として約200人のスタッフのトップを務めたことがあります。
IT部門が主でしたが、私の仕事は人事と予算管理がほとんどでした。会社の戦略の変更で、急きょ海外拠点に10人を2年間の契約で派遣することになりました。経験豊富な人材を派遣する必要がありますが、そうした人材は日本にも残さなければなりません。一方で、若いうちに海外で勤務するのもいい経験になります。これらの条件を満たす人選はなかなか難しく、ずいぶん悩まされました。

 新卒社員の一人に声をかけました。「喜んで赴任します」という答えを期待していたのですが、彼の上司を通じて返ってきたのは「自信がないので行きたくありません」。これまで書いてきたように「若者よ、海を渡れ。外から日本を見よ」が私のコンセプトです。「いい経験になるから冒険しておいで」とプッシュして、ようやく承諾してくれました。
 いやいや赴任して現地でみじめな思いをしているのではないか、という心配をよそに、彼は2年間の契約を延長して5年間も勤務。その後、退職し、海外でMBAを取得しました。日本の大手企業に勤めた後、起業し独立しています。正直に言って私はそこまでの飛躍を想定していませんでしたが、結果を見ると、あの時点で海外に派遣したのは彼の人生の新たな道を開いたという意味で成功だったと思います。

 選考の枠に入っていなかったのに、いきなり面接を求めてきた社員もいました。「ぜひ、行かせてください」と言われました。既婚者だったので、「あなたの夫は日本で仕事をされているんですよね?」と聞くと、「夫には仕事をやめてもらって現地で仕事を探してもらいます」という固い決意でした。
 彼女は海外勤務でも十分役立つ経験を積んでいましたので、赴任してもらうことにしました。現地で自分で交渉し、ほぼ同じ条件で数年間延長しました。会社から援助を受け、子ども達に最高の教育を受けさせることができたようです。その後も現地採用職員として計14年間仕事をしました。
 帰国後は、他の会社で約8年間務め、発展途上国で開発に携わりたいという学生時代からの夢を実現させるために国際協力機構(JICA)に有期雇用職員として入り、2019年から2年間ウズベキスタンに企画調査員として赴任。政府援助の案件を担当したそうです。大学時代に専攻したロシア語を使う機会に恵まれ、とても充実した日々を送ることができたということでした。2021年からはミクロネシア連邦に赴任し、同じく政府援助の案件に携わっていて、病院、学校、政府省庁やスポーツ組織で、日本政府の援助対象を案件としてまとめ、進捗の管理をしています。
 いまは別の国への赴任準備をしているようです。色々な国で働きたい、その国が発展する現場にかかわりたいとの夢がかない、日々充実した毎日を送っているそうです。この先、様々な国に赴任して一日も長くこの仕事を続けて行くことが希望だそうです。「JICAで仕事をしてから、自分にしか出来ないことがたくさんあるのだということに気がつきました。これからも国際社会のため、国益のために努力し、自分が楽しいと思える日々を送りたいと思っています」と語ってくれました。

 まさに、道は一つではありませんね。