Other voices14 . 吉田 勝己

Other voices 14 . 吉田 勝己

Japanese Protocol

 テレビの情報番組などで、年配のキャスターが若いアナウンサーに「○○君」と呼びかけていることがあります。同じ社内ならまだしも、放送中に上下関係を意識させるような呼び方をする必要性がわかりません。私はサラリーマン時代、新入社員に対しても呼び捨てにしたり、「君」で呼んだりしたことは一度もありません。同じ社会人としてふさわしくないとずっと考えてきたので、「さん」と呼んで来ました。
 ただ、逆に失礼な場合があると指摘されたこともあります。 相手に距離を置いているように感じられるというのです。最近、1歳年上のテニス仲間方から、「吉田君」と呼ばれることがあります。正直悪い気はしないので、長年勘違いしていたのかもしれません。

 Protocolは一般的に儀礼作法という意味で使われると思いますが、私が大昔に専攻した通信学では、通信手順の意味でよく使います。相手に情報を伝達する方法は、言葉による会話、のろし、手旗信号、手真似、拍手、お辞儀、手紙など、いろいろあります。
 日本独特のProtocolは、言葉ではなく相手の表情で真意心意を汲(く)む以外にも、対話、会話の際、お互いの呼び方にもあると思います。日本語には、ぼく、わたし、わたくし、おれ、など自分を表現する言い方が多々あります。相手の呼び方はさらに多く、あなた、あなたさま、きみ、おまえ、貴殿、先生などは頻繁に使います。相手を名前で呼ぶ際、○○さま、○○さん、○○くん、○○先生、〇〇ちゃん、または、敬称無しで苗字だけ、名前だけなどを使い分けます。弁護士や政治家を「先生」と呼ぶことがあります。学校の先生ではないけれども、敬うべき人たちという意味で使っているとは思いますが、若干の疑問は感じます。

 私が長く暮らした英国には、貴族社会で使われた“Ladies and Gentlemen”(現在では、異なる意味で使われていますが)などの表現が多々あります。ただ、相手の呼び方は、これほど複雑ではありません。もちろん、相手の呼び方はいくつかあります。Sir をつけたり、Ph.D. (博士号)を取得している人は医師でなくてもDrと呼んだりします。Mr、 Msをつけることもありますが、一般的には学校でも職場でもFirst Nameで呼び合います。ただし、それが決して親しい関係を示しているというわけではありません。英国企業の上下関係は、会話ではわかりにくいですが厳しいものがあります。ビジネスシーンでの名刺交換は、相手をどう呼ぶかを判断するのに大変役に立ちます。1枚の紙片を受け渡しするだけで、相手の氏名と肩書きが一目でわかります。
敬称は大切だと思います。しかし、この日本のプロトコルの複雑さは、お互いをRespectするだけでなく、人間関係を区別、さらに差別するものでもあるように思います。日本社会でこれが弊害になっているとは思わないので、私一人が違和感を覚えているのかもしれません。

 ちなみに、相手を丁寧な呼び方で表現するのは、他言語でもあります。フランス語では、tuは「きみ、お前」、vousは丁寧に相手を表す「あなた」という意味です。中国語でも、「你」(nı) をより丁寧に敬意を込めて言うときに「您」を使います。