From a distance 4. 橋本 弘道

偶然の声 かすかな音
小学校の低学年のころ、誕生日かクリスマスのプレゼントに玩具のトランシーバーの2台セットをもらいました。いまのスマートフォンを分厚くしたようなシルバーの箱型で、伸縮式のアンテナがついていました。100メートルも離れると会話が途切れてしまい、まさに遊びにしか使えない代物でした。
それでも弟や友人と話しているときに、知らない人の声が聞こえてくることがありました。トラックのドライバーや別のトランシーバー組の会話が混信するのです。「あっ、混信している」とお互い言った後に「初めまして」と挨拶し、通じなくなるまで見知らぬ相手と他愛のない会話を続けたこともありました。
高学年になるとラジオの深夜放送に夢中になりました。番組が早目に終わってしまう日曜の深夜から月曜の未明にかけては、ラジオのダイヤルを回しながら雑音に交じってかすかに聞こえる国内の遠方の局の番組や海外からの放送に耳を傾けました。
据え置き型のラジオで中波放送を聞いていたのが、短波も入るトランジスターラジオを買ってもらうと、聞くことができる海外の局は一気に増えました。外国の言葉は理解できませんでしたが、音楽はその国の伝統的な曲も多く、世界にはこれほど多くの言葉や音楽があるのかと、真っ暗な部屋の布団の中で感心したのを覚えています。海外の放送局からのベリカード(受信確認証)の数を友人と競い合うこともしました。これまで触れたことがない、遠くからの声をキャッチしたことが自慢だったのです。
自分が関心のある情報だけに囲まれる「フィルターバブル」、同じような意見や価値観の人たちとだけつながることで、それが一般的なことだと思い込んでしまう「エコーチェンバー」が問題になっています。どちらも、偶然飛び込んできたり、かすかに聞こえてきたりする音声に耳を澄ますことがない世界です。聞こえたとしても、共感できない他者の声として排除してしまうのです。
1960年代半ばに英国で制作された特撮人形劇「サンダーバード」は、日本のテレビでも繰り返し放送されました。南太平洋の島に造られた国際救助隊の秘密基地からトレーシー家の兄弟たちが超音速ジェット機や超大型輸送機などで世界中に救助に向かいます。危機に瀕している人たちからの救助要請を受信するのが、主に次男ジョンが滞在しているサンダーバード5号の宇宙ステーションです。地球発の通信から、SOSを聞き分けて基地に知らせているのです。
関心がある情報だけに触れ、同じ考えの人たちだけとつながるのは心地よいことかもしれません。でも、バブルの中にいると外からのSOSは聞こえません。そんなバブルばかりになると、自分が外にSOSを発信しても聞いてくれる人はいないでしょう。SOSは、バブルの外にいる人にとってさえも偶然混信したのかと思うぐらい小さくしか聞こえないのです。