Other voices 3.  吉田 勝己

Other voices 3.

吉田 勝己

金太郎が10人いても

 このウェブサイトの役員紹介で、私は次のように書きました。
「自分の将来は、まず自分自身を知ることから始まると思います。何が好きなのか、何が得意なのか、 何がしたいのかを知ることによって自分の長期的な将来が見えてくるのではないでしょうか。壁にぶつかっても、壁の向こう側の展望が見えると思います」
 えらそうなことを書いていますが、私自身がそうであったわけではありません。

 1996年から2年間、日本法人のロンドンの本社に勤務していたとき、所属していたチームに英国人の新卒社員が入りました。驚いたのは、彼は自分にできること、できないこと、やりたいことをしっかり心得ていました。入社半年でプロジェクトを任された時も、「この部分は自分は自信がないので先輩の教えを乞いたい。これは自分には自信があります」と言い、その半年後にはしっかりプロジェクトを完成させました。

 就職して、会社の指示通りに一生懸命やる事は大切ですが、自分がこれにより何を得ているのか、これがどう次のステップにつながるのかは、あまり考えない。バブル経済がはじけて、リストラされた多くの中年層が自殺までしたニュースを覚えています。勤めて20年、30年で管理職になっても、いざ会社がなくなると、自分には何ができるかの自覚がない。再就職面接で「私は部長だったので部長ならできます」と言ったことがニュースになったこともあります。

 黒柳徹子さんの才能は当時の公立の小学校では生かせなかった。自由でのびのびとした教育で知られたトモエ学園に転入することで才能を生かすことができたようです。最近「それぞれの個性を活かす教育」とよく言われますが、現状はどうなんでしょうか。いまだに、個性的な人が自分の道を選ぶのが難しい社会なのでしょうか?

 個人主義を利己主義と誤解されることが多い日本社会。個人主義ではチームワークが出来ないと思われがちです。でも、いろいろな個性の集まりだからこそ、チームが成り立ち目的を達成できるケースが多いと思います。大切なのは、それぞれの個性をまとめるリーダーシップだと思います。金太郎を十人集めれば力は十倍になるかもしれませんが、知恵は一人と同じ。そこに、桃太郎も、キジ、サル、または鬼も含めることによって、場合によっては良いチームになるんじゃないでしょうか?

 ロンドンの本社勤務の時、小6の息子と小2の娘を日本人学校ではなく、現地の私学に編入させました。英語は全く話せませんでしたが、学校で英語特別レッスンをつけることを条件に親のエゴで無理やり入れました。息子は、最初のころ結構欠席が多かったのですが、2人とも文句を言わず2年半通ってくれました。
 娘は2年半の間、英語は一切話さずに通しました。担任の先生から電話がかかってきて、かたくなに話さないけれど、なぜなのか聞いてもらえないかと言われました。娘に聞くと、話さなくても学校で困っていないとの返事でした。2年半後に帰国するとき、彼女が本を作りました。自分で作った短い8章分のストーリーがしっかりした英語で書かれ、手描きのかわいい絵が添えられていました。私の宝物の一つとして、いまでも引き出しの奥にしまってあります。
 学校のカリキュラムはとても自由で、「今日は教科書の何ページからです」といった教育は一切ありません。例えば、クラス全員で行った旅行先の街の絵を描いたり、帰ってきてから教室で特徴や歴史を振り返って学んだりといった内容です。
 日本に帰国後、2人とも逆カルチャーショックで苦しんだようですが、何とかしのいでくれたようです。現在2人ともグローバルな土俵で仕事をしています。

 ロンドンでの勤務以降、わたしは常に自分に問いかけている言葉があります。
 自分のやりたいこと、得意なことを知っていますか? それを実行していますか?